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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1650号 判決 1964年3月03日

理由

日野芦蔵が被控訴人の別名であること、甲第一ないし第三号証(本件手形)が被控訴人の手裡に存すること、右甲第一ないし第三号証の各一の控訴会社の記名押印が真正なものであることはいずれも当事者間に争がなく、この事実と原審証人榎本巌同殿岡栄同梅垣昭夫、当審証人小樽英一の各証言及びこれらの証言により全部真正に成立したと認められる甲第一ないし第三号証の各一、二を綜合すると、次の事実が認められる。

控訴会社は予て訴外城山ゴルフクラブから事業資金を借りていたが昭和三十四年十二月になつて城山ゴルフクラブからその金員の返済を迫られていたので、控訴会社は手形による金融を得てこれが返済の資に充てんことを意図し、同年十二月二十三日本件手形三通をいずれも受取人欄を白地式にして振出し日頃取引のある訴外古市建設株式会社に割引方を依頼したところ、同会社経理係佐々木実は同会社の社長と縁戚関係のある訴外榎本巌にこの手形を交付して控訴人のための手形割引先を探してくれと頼んだ。被控訴人は右榎本より右手形三通の割引方を依頼せられ、即日これを承諾して割引代金三〇〇万円を現金で支払い、受取人欄白地のまま本件手形三通の交付による譲渡を受けその所持人となつた。控訴会社は榎本よりこの手形割引金の交付を受けて前記債務弁済の資に充てた。被控訴人はその頃右手形三通の受取人欄に被控訴人が銀行取引上使用している日野芦蔵なる名を補充し満期に取引先たる株式会社第一銀行銀座支店を通じて手形交換に付して支払呈示したところ控訴会社はその支払を拒絶した。然し控訴会社は銀行より手形不渡の処分をなされることを虞れ、急拠当時代表取締役を辞任していた殿岡栄と相談の上同人個人振出にかかる金三〇〇万円の約束手形一通を被控訴人に差出し、被控訴人に対し不渡処分を免れるよう懇請したので、被控訴人もこれを諒とし、本件手形金債務支払の保証とし右金三〇〇万円の手形を受領する趣旨であることを控訴会社に納得せしめた上この手形を受取り、依頼返却の形式によつて本件手形三通を銀行から被控訴人の手裡に戻したこと。以上の事実を認めることができる。この認定の妨げとなる証拠はない。

控訴人甲は第一ないし第三号証の各一に支払拒絶の符箋がないから、本件手形は満期に支払銀行に呈示されなかつたことが分る、というが甲第一ないし第三号証の一、二によれば、本件各手形は前記取立委任を受けた株式会社第一銀行銀座支店において満期の日に手形交換に付して支払呈示したこと、支払銀行たる株式会社住友銀行虎ノ門支店は満期の翌日預金不足のため支払拒絶の符箋を付し(この符箋は剥がれてないが、貼られた符箋が剥がれた痕跡があり、且この符箋との割引が残つていることで、このことは推認するに難くない)前日捺印した「交換払」の印に「取消」の印を押捺しこれを逆交換に付したことが認められる。従つて控訴人のこの主張は採るに足らない。被控訴人が本件手形の悪意の取得者であるとの抗弁事実については前記の事実認定を妨げる証拠がないところからこれを否定せざるを得ない。控訴人はこの点につき二の1ないし10で縷々主張するところがあるが、その内前記の事実認定に副わないものは反対の証拠がない以上採用しがたく爾余の部分によつては、仮にこれが認められるとしてもこれによつては被控訴人の本件手形取得が悪意の取得と看做さざるを得ない筋合のものではない。本件手形債務免除の抗弁が採用しがたいことも叙上の説示により明かなところである。

果して然らば控訴会社は被控訴人に対し本件手形金合計金三〇〇万円及びこれに対する満期の翌日たる昭和三十五年三月二十三日以降完済に至るまで手形法所定年六分の割合による遅延利息の支払義務のあることは当然であるから、これが支払を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきものとする。

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